被害者はF夫婦だけではなく、長年多数の患者に、無資格リハビリ医による無診察治療が行われてきた。


本質的な問題「セラピストおまかせリハビリテーション

 平成24年5月提訴当時,F夫婦は単に体幹障害に対する医師個人の,医療過誤とまでは言えない誤認識隠蔽のためと考えていたが,病院の嫌がらせは組織的で,F夫婦にとっては非常に深刻なものであった。

 何故ここまでするのか? 何があったというのか?

 それを調べるうちに,同年8月,被控訴人病院の「セラピストおまかせリハビリテーション」が判明した。


病院には厚労大臣の定める脳血管疾患等リハ専任医が在籍していない(病院が法廷で認めている)ので,F妻入院中,一度も脳血管疾患等リハ専任医の診察・治療指示・治療計画説明を受ける事が無かった。

脳血管疾患等リハ専任医が在籍していれば,内科医がリハビリ診察等を行っても問題は無いが,同医師にはリハビリ勤務実態がない。

リハビリ科長並びに担当セラピストは,厚労大臣の定める脳血管疾患等専従セラピストではない(病院が反論しない)ので,F妻の中心性頸髄損傷を軽症と判断し,入院初日から病院全体が患者を軽症扱いし,適切な治療を行わなかった。

脳血管疾患等リハ専任医が行うべきF妻の中心性頸髄損傷の診断・治療計画策定を,リハビリ科長が実施していたため,第2診断書修正説明も医師不在で,リハビリ科長が行った。

医師は,山梨病院からの医療情報は見たのだろうが,重症扱い記載の意味が解らず,山梨病院と同様扱いの指示はせず,入院初日からセラピストに任せてしまっていた。

入院初日のカンファレンスで,リハ専任医の知識が無い医師は,控訴人らの治療期間上限を誤って2箇月短縮して説明し,特に6箇月上限のF妻に対しては,診察・身体状況確認前に軽症・呼吸器リハ患者治療期間の3箇月退院を勧めた。

医師は脳血管疾患等リハ専任医ではないので,F妻の中心性頸髄損傷に関する薬剤の質問に「前病院の医師に聞いて」と,答えられなかった。

医師は,F妻が服用していた鎮痛剤を「骨折は治っているから,いらないんじゃないの?」と発言し,中心性頸髄損傷患者に頸部痛がある事を知らなかった。

医師は,運動器リハ専任医でありながら,入院中に控訴人らの受傷部分診察どころか見る事も一度も無かったのに,F夫の障害を「胸部変形は無い」と診断した。

運動器リハ専任医でありながら, F夫の胸部変形確認の申し出に,当初「自分は内科医だよ。整形の事は分からない。」と発言した。

F夫の変形確認後,医師は「変形はあるけど,レントゲン診断は出来ないので,生まれつきのものか判らない。」と発言した。

医師が病棟定例巡回の午前中,F妻に「旦那さん,いつもいないけど何処行ってるの?」「リハビリ中です。」医師「あぁ,そう」・・・治療指示した筈の専任医が施療実態を全く認識していなかった。

厚労省指導は「医師は定期的な機能検査等をもとに,その効果判定を行い,リハビリテーション実施計画を作成する必要がある。」と定められているのに,医師は少なくとも定期的機能検査を記録していなかった。

リハ専任医は,リハビリテーション実施計画を患者に説明し,その要点をカルテに記載する義務があるが,実施された事が無い。

定期的機能検査記録が無く,効果判定が出来ないのに,医師は控訴人F妻の退院を診断した。原判決は,記録が無いのは問題と述べながら,この定期機能検査記録の本件要再計測項目が効果判定の基礎となり,入院中の改善状況判定・退院時期判定の基礎となる点を無視した。

医師が作成したF妻の第1診断書は,不正確だっただけでなく,記載義務のある定期的機能検査記録3項目の記録が無いと主張していたのに,故意に正常値を虚偽記載し,F妻に交付したのに,原判決は単なる過失と認定している。

・「第2診断書に記録無し項目がある」と病院は再計測を主張するのだが,後遺障害診断書(甲3)の同記録のうち,一部は正しく症状通りの記載があったが,この矛盾について原判決は無視している。

医師・副院長・リハ科長・セラピスト全てが,F妻の中心性頸髄損傷が体幹障害に当たる事を知らずに治療し,体幹障害判明後の,現在もこれを否定し続けている。


 以上は,裁判においてもF夫婦は何度も主張しているのだが,判決の認定は「違法であっても本件関係無し」である。


 厚労大臣の定める基準に違反して,脳血管疾患等リハ専任医が在籍せずとも,リハ経験ある医師で問題無しと認定するのだが,医師は脳血管疾患等リハ専任医ではなかったと共に、運動器リハ専任医の勤務実態がなかったから,本事件が発生したのである。


 被控訴人病院の脳血管疾患等リハは,F妻のほか,脳梗塞脳出血,脳外傷,脳炎,脳症,髄膜炎,脳膿瘍,脊髄損傷,脊髄腫瘍,てんかん重積発作,多発性神経炎,多発性硬化症,神経筋疾患,顔面神経麻痺等,パーキンソン病脊髄小脳変性症筋萎縮性側索硬化症,末梢神経障害,皮膚筋炎,多発性筋炎失語症,失認及び失行症,高次脳機能障害言語障害聴覚障害,言語聴覚障害,構音障害,言語障害を伴う発達障害等の患者を受け入れている。

 これらの患者に対して,脳血管疾患等リハ専任医の診察・治療指示・治療計画策定などが1度も行われていないのに,判決は「違法治療であっても本件直結無し」と認定しているのである。

 しかし,病院による医師法違反の「セラピストおまかせリハビリテーション」によって,多くの脳血管疾患患者が,知らずにF妻と同様の診療を受けている事になる。


 病院に入院していたF夫婦ら2名が,2名ともこのような事態に巻き込まれたのである。単純なミスというより,構造的な欠陥があったとしか思えない。

 法律には無知なF夫婦らであっても,病院により,F夫婦らと同様多くの患者に不適切診療が行われていると知れば,その是正を求めるのが社会的責任だと考える。

 しかし,裁判官が,本事件の本質問題を正しく認識する事をしない上に,「被控訴人病院に何らかの法律違反の問題があるとしても」(16頁)と,多数の患者状況を見逃し,適法行為のF夫婦らの被害を「本件とは直結しない」と,逆にF夫婦らに非がある旨認定した。

 また,F夫婦らは,「医師は名目リハ専任医であって,勤務実態は無かった」旨,具体的事例を挙げて指摘しているが,裁判でこれが検証される事も無しに,適法診療と認定している。

 しかし,病院の運動器リハは,F夫婦らのほか,上・下肢の複合損傷,脊椎損傷による四肢麻痺体幹・上・下肢の外傷・骨折,切断・離断,運動器の悪性腫瘍,関節の変性疾患,関節の炎症性疾患,熱傷瘢痕による関節拘縮,運動器不安定症等の患者を受け入れている。

 これらの患者を担当する医師が,「整形の事もリハの事も判らない。」と発言していたとF夫婦らは主張しているのに,裁判は,病院から反論もなくリハビリ専任医である証明も無いのに,病院主張の「経験あるリハ専任医」とのみ認定する。

 しかし,F夫婦らの主張が事実であったなら,脳血管疾患等患者より影響は低いだろうが,運動器患者にも不適切治療が行われている可能性がある。

 裁判官は,「問題があっても,本件直結は無し」と患者らを切り捨ててしまって,法律家・社会人として責任はないのだろうか。