99人の医者が治ってないと言っても、一人の医者が治ったと言えばそれが通るのが医療裁判

99人の医者が治ってないと言っても、一人の医者が治ったと言えばそれが通るのが医療裁判
 この言葉は、調停申立の際の事務官の言葉だった。
 現実はこの通りだったが、MRI画像診断された頸髄損傷をリハビリで治癒させたという、普通は国際的医学常識に反する事を医者が言う筈が無い。・・・ それを医者が治したと言ったから、治っていると認められたのだろう。
 しかし、判例も、MRI画像により診断された脊髄損傷は、後遺障害が認定されている判例が100%で、そもそもMRI画像診断は、水戸黄門の印籠のようなもので、後遺障害の有無が争いになるようなものでは無い。
 ただMRI画像診断された脊髄損傷で、100%認められた後遺障害が、事故によるものか別の原因によるものかが争われた例はあるが、事故直後の医師が診察し身体状況とMRI画像診断された頸髄損傷は、事故原因が特定され、後遺障害は脊髄損傷に起因すると全て判決されている。

 脊髄損傷と診断されても、一律の症状で同じ後遺障害があるものではない。軽度のものもあれば重度のものもある。その判定基準を厚労省が定め、この認定基準によって脊髄損傷の後遺障害程度が判定されている。
 脊髄損傷の診断検査法は種々あるが、一番信頼度が高いのはMRI画像診断である。中枢神経部分はレントゲンでは撮影出来ないので、MRIにより中枢神経部分の出血・損傷部分が画像に現れれば、実際の身体状況に後遺障害等級9級以内の後遺障害症状が遺っているのが通例なので、9級以内確定が一般的である。
 それ以上の等級は、医師の診察診断によって判定されることになる。
また、MRI画像で損傷が確認されなくても、別の検査法で確認されれば、後遺障害等級12級が認定され、検査で確認されなくとも、医師が脊髄損傷症状を確認診断していれば14級認定が通例となっている。

 F妻の場合、MRI診断された頸髄損傷で、山梨病院からMRI画像CDを渡されている。「次の病院に渡すのか」患者が聞いたら、「病院は判ってるものだから渡さなくていい。何かの時に必要なこともあるので大切に保存しておいて」と言われ、患者は今も保管している。
 今回、病院は、MRI診断された頸髄損傷を正しく認識していたと主張しているので、脊髄損傷であったか否かが争いになっていたわけでは無い。従って、証拠提出は不要だった。
 病院は、脊髄損傷により後遺障害があると書いた同じ診断書に、体幹障害無しと診断意見を書いた結果、その意見に合わせるために、体幹障害即ち脊髄損傷はリハビリで治癒させたと主張したのである。
 医学常識に反する脊髄損傷治癒でも、医師が治癒診断主張したので、裁判官がそれを認めるのは止むを得ないのかもしれない。
 しかし、医師は、診断書に自ら脊髄損傷により後遺障害がある旨診断所見を記入しているのに、診断意見で治癒主張しているだけで、これを安易に医師主張通り、脊髄損傷治癒を認めた裁判官は、患者の診断書が矛楯するという指摘をどう理解していたのだろうか。
 何故、矛楯する診断書記載になったのかの理由について、患者は、主治医がリハビリ専任医の資格が無い内科の専門医で、リハビリ知識経験の無い医師だった為と主張し、病院も、主治医が脳血管疾患等リハビリ専任医ではなく、厚労大臣が定めた医師要件に適合していないことを法廷で認めていた。
 医学常識に反することを一人の医師が言っても認められる・・・とは言っても、常識に反する主張をした医師が、リハビリ専任医の資格が無かったと判明したら、加えて一度交付した軽度診断書を患者指摘で中度診断書に訂正するような医師の主張は常識に反した誤りであると判決されるべきであった。

 また、病院が脊髄損傷治癒診断の証拠として法廷で主張したのは、機能的自立度評価FIMが125/126満点近くまで症状改善したという数値だけである。
 このFIM数値が、撤回破棄された軽度診断書の根拠になった数値だと裁判官は認めていたのに、判決理由で脊髄損傷治癒の証拠として認定してしまった。
 FIMが125/126満点近くまで症状改善したというのは上下肢7級体幹無しの軽症診断書なら、証拠として有り得るが、体幹無し・脊髄損傷治癒を主張するためにFIM満点近くを主張したため、下肢4級診断書では下肢4級の証拠が無くなる。
 下肢4級は障害程度としては高い等級なので、機能的自立度評価FIMが125/126満点近くまで症状改善している状況で認められる等級では無い。
患者はこれを法廷で主張済みなのだが、何を言っても採用されなかった。余りの病院証言偏重では、諦めるしかない。

 脊髄損傷をリハビリで治癒させたという病院主張が裁判で認められてしまったのだが、まさしく、一人の医師が治したと言えば99人の医師が治っていないと言っても治したことになる・・・その通りの判決になった。
 確かに医師資格を持つ者が自身の知見で判断した診断結果は、尊重されるべきだというのは理解出来る。しかし、その医師の判断が正しかったか否か法廷で争われた場合、裁判官は、患者の主張は無視しても最低限、医師が自ら脊髄損傷に起因する後遺障害があると書いた診断書・・・証拠ぐらいは見るべきであった。
 何より裁判で正しい診断書と判決された診断書の診断所見に、医師自身が「脊髄の損傷による運動マヒと感覚マヒの残存、その他温痛感覚障害とシビレ」など、脊髄損傷に起因する後遺障害を明記しているにも関わらず、診断意見に「体幹障害無し」即ち脊髄損傷治癒を記載しているのは、医師の診断記載が明らかに矛楯する誤りである。