事件のまとめ

 山梨旅行中の、F夫婦は交通事故に遭い、山梨県で入院治療。
その後、函館元町にある回復期リハビリテション施設に転院し、リハビリ治療を継続した。F夫は2箇月、F妻は3箇月の治療後同病院を退院した。

 病院のリハビリ医は内科の専門医で、厚労大臣が定めた医師要件を満たすリハビリ専任医ではないと法廷で自ら認めたように、リハビリ治療の経験や知識が無く、治療は療法士任せであったため、本事件が発生した。

 病院では、退院患者の診断書記載に際しては、定期的に他病院から出張診察している提携整形外科医の診断を確認することも無く、無診察で内科医が転帰を「治癒に近い状態」として記載するのが習慣常習化していた
 その結果、交付された診断書は、F夫の胸部変形や右膝関節障害による歩行困難が診断書に記載されず、F妻の症状も脊髄損傷による後遺障害診断所見が記載されながら、脊髄損傷は治癒した旨記載され、入院中の記録に反する軽症記載になっていた。
 そこで、患者らは病院に訂正を求めた。病院は、カルテ記録の確認や実際に診察を行った上で、誤りを認め記載内容の訂正を約束した。

 訂正提示されたF妻の「身障診断書」は、当初の診断意見「上下肢障害7級・体幹障害無し(脊髄損傷治癒の意味)」だったものが、訂正後は診断所見に脊髄損傷による体幹障害が詳細に記載され、上下肢の障害の記載は無かったが、診断意見には体幹障害無し・上肢障害7級・下肢障害4級の記載になっていた。
 同書の診断所見から体幹障害5級相当の筈が、体幹障害無し意見になっていた点、障害所見が無い下肢が、下肢障害4級意見になっていた点は、疑問であったが、入院中の歩行記録から、体幹障害による下肢障害4級意見であれば違法にはならない。
 5級より上級の4級申請は、F妻に不利になるものでは無いので、F夫婦は診断所見と診断意見に矛楯があるが問題無いのかを病院に確認し、障害者手帳不正受給にならないよう、「大腿骨折の下肢障害申請は認められていないので、福祉課から確認があったら脊髄損傷による体幹障害が原因と説明して下さい。」と病院に申し入れをした。

 ここで注記しておきたいのは、この種のトラブルといえば、医師が医学的知見に基づいて診断した内容について、より重篤を主張する患者がクレームするという構図が一般的である。
 しかし本件は全く異なり、医師が入院中の患者症状から、下肢4級の後遺障害があるという診断意見を診断書に記載した事に対して、患者は、「同じ診断書に医師が書いた総合所見の患者症状から、体幹5級診断意見が正しい。」、つまり、より低い等級が正しいと主張して、これがトラブルになっているのである。
 仮に患者に後遺障害がないのに、後遺障害を認めろと言っているのなら、病院の拘りも理解出来るが、患者に4級相当の後遺障害がある事を病院も認めているのに、患者がより低いレベルの体幹5級ではないかと矛盾を指摘しただけで、診断根拠の説明もなく、患者の説明要求にも「説明済み」と応じず、病院はいきなり一方的に強硬な嫌がらせを開始したのである。

 患者が診断書の矛楯を指摘した直後、病院は態度を急変し、F夫婦の診断書訂正を拒否して、保険金給付妨害を開始した。病院に「人の保険金支給を妨害するのを止めるよう」申し入れたが、病院は、保険金給付妨害を継続したまま、身障診断書の体幹障害無し、脊髄損傷治癒診断書を認めるよう強要した。
 後遺障害保険契約をしていた複数の保険会社に連絡したところ、当然ながら「診断拒否されたので保険給付が出来ない」「脊髄損傷を治癒させたという病院はおかしい。転院して治療再開した方が良い。」と勧められた。
 F夫婦共にリハビリ治療の疾患別保険診療期間が2箇月残っており、当時、保険給付を受けながら治療再開が出来た。
 病院に、「治療再開したいので、他病院に紹介状を交付してくれ」と申し入れたが拒否された。
 これは他病院に紹介すれば、脊髄損傷治癒診断が誤りであると判明してしまうからである。

 脊髄損傷用の薬剤が切れるので、病院に薬剤処方を申し入れたが、拒否された。
 医師法では、慢性症状患者の場合は家族の代理診察で薬剤処方可能であり、病院も法廷でこれを認めながら、現在も本人診察で無ければ処方しないという。
 退院後も2箇月間、何の問題も無く脊髄損傷用の薬剤が処方されていたが、病院が診断書に脊髄損傷治癒を記載した後、本人診察を要求するのは脊髄損傷治癒診察によりを薬剤を正式に止めるつもりと考え、家族への処方を求め続けたが拒否されたのである。

 非常識な対応のまま無視を続けるので、病院に質問状を送付したが、事務長から「説明済み」の一言。
 保険金給付妨害を始めたのも、この事務長だった。

 患者らは、紹介無しで他病院の診察を受けようと試みたが、函館医師会の取り決めで、事故患者については、前病院の紹介状が無ければ受診できなかった。この事実は,保険会社・函館西警察も確認済み。
 病院療法士もこれを認めているが、病院は法廷で、医師には応召義務があり、紹介状が無ければ受診できないとは聞いたことがない旨主張し、転院しなかったのは、患者の自由な選択と主張した。

 疼痛薬が無く、痛みが激しく日常生活も困難になって、保険金も給付されないので、止むを得ず調停を申し立てたが、F夫婦が診断書空欄計測に応じると譲歩しても、事務長は調停継続を拒否して不成立となってしまった。
 調停決裂理由を、病院は「F夫婦が体幹障害に固執し、体幹障害を病院が認めるのと引き替えでなければ計測に応じないと主張し続けたから、著名な整形外科医の調停員が、『ここは診断が正しいかを決める場所では無い』と言ったので帰っただけで、決裂させたわけではない」と法廷で主張した。
 しかし、F夫婦側から言わせれば、病院が脊髄損傷治癒・下肢障害4級に固執したのであって、調停で患者は、診断書空欄再計測に応じると譲歩したのに、脊髄損傷治癒を患者が認めなければ調停に応じないと拒否したのは病院である。
 病院には、身障者を認定する権限が病院にあるとの思い違いがある。医師は診断書を書くだけで、それを審査するのは行政である。脊髄損傷を治して下肢4級の障害があると病院が主張したなら、患者が空欄再計測に応じれば、調停を継続し下肢4級の診断書を福祉課に出せば良いのである。
 事務長が主張した著名な整形外科医だった筈の調停員は、F夫には「自分は専門医では無いので判らない」と説明したが、もし専門医であったなら、MRI診断された重症の頸髄損傷を、「どの程度の脊髄損傷だったの」とF夫に聞く必要は無かったし、脊髄損傷をリハビリで治癒させたという医学常識に反する病院の主張を認めた筈が無い。
 
このようなウソ主張を平気で思いつけるのでは、聞く人がシッカリしていなければ勝てない。
 調停は不成立となったが、調停事務官から、他病院に紹介するらしいと説明を受け、F夫婦は一安心した。
 しかし、その後病院が指定した医師は病院の提携医であり、「脊髄損傷はもう治っている。症状は座骨神経痛だ」と診断しようとした。その上「今は保険から治療費が出ているが、座骨神経痛なら治療費は自己負担になる。」と脅し始めた。
 F夫が「MRI診断された事故の脊髄損傷が治った例はない、この病院ではあるのか」と問うと、「何でそんなこと知ってるの?自分は事故を見ていないので、事故の怪我か判らない。座骨神経痛とは言っていない」と言う以外、診断根拠の説明は無かった。この診断原因は、病院からの紹介状・診療情報提供書にそのような記載があったからである。
 F夫が「妻の痛みが激しいので薬剤処方を求める」と、その医師は、「回復期患者には薬剤処方が出来なくなった」と拒否した。同じ回復期のF夫は同病院で薬剤処方を受け始めたので抗議すると、脊髄損傷を否定診断した医師が、数日分だけでも脊髄損傷薬剤を処方した。故意に脊髄損傷を否定診断し薬剤処方を拒否して、病院に義理立てしたのである。

 その後、保険金給付妨害について、病院は「調停直後、保険会社に診断回答すると連絡したが、F夫婦が保険会社に拒否させたので給付されなかっただけで、責任は無い」旨法廷で主張した。
 F夫婦が「複数社に、病院が障害が無いという回答をするなら、事実では無いとは伝達したが、調停までして、保険金給付を求めた側が保険会社に給付拒否させる理由が無い。」と法廷で説明した後も、病院は保険会社に診断回答せず、保険給付が無いまま支給期間が終了してしまった。

 調停後、民事裁判を提訴したが、病院側の脊髄損傷治癒主張が全面採用され、脊髄損傷の後遺障害は無い。治癒している、病院に転医義務は無い、診断書が交付されなかったのは、F夫婦が脊髄損傷治癒を認めなかったためで病院に責任は無い。保険金給付は妨害では無くF夫婦の為に保留しただけで、結果給付されなくても病院に責任は無いなどと認定。但し、診断書交付拒否に関する損害は一部認定された。
地裁結審後、裁判所書記官は「本人訴訟の医療裁判で、一部でも賠償を認めさせたのはスゴいことですよ。」と言ってくれたが、喜べるものでは無かった。
何故なら、判決によっても病院は真の責任を認めず、診断書交付妨害を継続したため、間に合った保険金も、給付妨害されたままで、現在に至っているからである。
 控訴したが、高裁も同じ判断で、最高裁は門前払いであった。

 F夫婦は、上肢障害7級・下肢障害4級・体幹障害無し診断意見の診断書を証拠として提出しているので、それを見れば同診断書の診断所見と診断意見が、全く矛楯しており、誤りであるのは明らかなのに、これが認められることは無かった。
 裁判官は、病院の主張しか聞かず、証拠の診断書を見ることも無かったとしか思われない。
 判例も、脊髄損傷が診断されていれば、全て後遺障害が認定されており、特にF妻の脊髄損傷のようにMRIで画像診断された脊髄損傷は、無条件に後遺障害が認定されている。
 裁判所の判断は、判例にも違反するものであった。

 尚、当初、病院は一貫して体幹障害は無いと主張していたが、最終陳述で主張を変え、「診断書に記載するレベルでは無い体幹障害はあったので、下肢障害と併合申請して下肢4級記載した」と主張した。
 これに対しF夫婦は、併合申請は併せて上級の申請を行うもので、厚労省認定基準では体幹障害と上下肢障害は、上下肢に単独の障害が無い場合は併合申請は認められていない事実を述べ、体幹障害は上下肢に障害が遺るのが一般的なことから、病院の診断意見下肢4級は体幹障害の後遺症を誤って記載したもので、病院が自ら診断書に記載した体幹障害症状診断所見と自立歩行距離1Kmなどの身体状況は、体幹5級基準の自立歩行距離2Kmを上回り、明確に体幹5級に該当すると主張し、「診断書に記載するレベルでは無い体幹障害」という病院の主張は虚偽である旨主張したが、厚労省認定基準は法律では無いと認定されたせいか、患者主張は全て認められなかった。

 病院は、裁判中、「責任の発端は病院にあり、真摯な反省と心からの謝罪をしたい。
病院スタッフ全員が申し訳ない気持ちで一杯だった。何度も謝ったがF夫婦に受け容れて貰えなかった。」などと何度も述べ、裁判官はこの主張を認めた。
 だが、ちょっと考えてみて欲しい。
 病院が謝罪と反省を述べている時、保険金給付妨害は中断されていたのか?
 薬剤処方妨害は中止されていたのか?

 全ての嫌がらせを現在も継続しながら、3年近く患者の社会復帰を妨害してきた病院の対応の、どこに謝罪と反省があるのか?